わるいやつ

「俺は左右田が思うほどいいやつじゃないよ」
日向が唐突に言い放った言葉は響きのわりに、柔らかくオレの耳へと落ち着いた。
「お前に好かれたいがために落ち込んでるのにだってつけ込むし、同情で何かお前の気を引けるって言うならきっと俺、迷わずそうしてしまうようなやつだから」
言いながら、日向のすっと伸びた指がオレの髪を撫ぜていく。触れている箇所からほんのりと伝わる日向の体温が心地よい。
日向はつけ込むつもりでそうしていると言うが、この動きまで計算なのかと思うと逆に嬉しくなってきた。人には手酷く裏切られるか利用されるばかりだったオレを、「オレに好かれたい」という理由だけで今、日向はそうしている。
日向自身はこれを悪いことなのだと認識しているのだろうが、それは大きな間違いだ。卑怯(と、日向は思っているだろう)だと思うような手を使ってまでオレに好かれたいだなんて、そんなの嬉しいに決まっている。
「ごめんな、左右田」
謝罪など要らない。人と比べてかなりやわく出来ているオレの心は、今の日向の言葉に傷がつくどころか躍ってすらいるのだ。
「やっぱ日向じゃ悪くなりきれねえな」
本当に悪いヤツがそんなこと白状するわけがない。そう続ければ日向の淡い色の目が丸くなる。
「……話聞いてたか、お前」
「聞いてたっつの」
こんな嬉しい、心地の良い言葉を聞き逃せるはずもない。
「オレも日向が思うほど、いいヤツじゃねーよ、多分」
日向の与えてくる優しさにつけ込んで、甘えて、そうして今こんな風に上機嫌になっているのだ。日向からしたらこれほどの悪党もいないくらい。
「何が言いたいんだよ」
不満げな表情で言う日向に、それくらい分かるだろと視線だけでそれを伝えてやる。そうやってつけ入る隙を探す間に、少しはオレがどう思っているのかくらい察してみろよ、と。
それを知ってか日向の頬から眦あたりがほんのりと色づいたのを見て、オレは優越感に浸ったのである。

この日向くんあざとい気がする。