現パロ左右日正月の陣
0101

『大晦日はちっと予定あんだよなー。一日の昼からだったら大丈夫』
「そっか……」
『なに、オレがいねーと寂しい?』
「ばーか調子のんな」
『んだよ、つめてーなァ』
「……じゃあ、昼に初詣行かないか?暇あるんだろ」
『おう、いいぜ。じゃあ駅で待ち合わせな』
「わかった、後でまたメールする」
『おー、じゃあな』
「うん、またな」
――これが、一昨日の電話でのこと。まあクリスマスは一緒だったし、大晦日は学生なら家族と過ごすのが普通のことだからと、今年は一人での年越しを覚悟していた。うちみたいな冷え切った家庭じゃなきゃ、当たり前の過ごし方だ。
そう分かってはいても、やはり寂しさを感じない訳じゃない。何でも一緒がいいなんて子供みたいなことを言うつもりはないが、節目節目のイベント事にかこつけて会いたいと思うのはわがまま過ぎるだろうか。
自分で食べるだけ、それも本当はあまり好きではない出来合いのお節料理をお重に詰めながら一人虚しく新年を迎える準備をする。傍に家族も友達も恋人も共にいない大晦日は何だかとても寒く感じた。
この様子なら歓迎はされないだろうけど実家に帰っておいた方が一人でないだけマシだったかもしれない。実家の方が家事をしなくて済むし、上げ膳据え膳だから気は休まらないが身体的に楽が出来る。
寒いのは寂しいせいではない、と暖房の温度を一度上げる。人肌恋しいからとかいう理由で部屋の温度が下がるなら恋人がいれば室温が上がるのか?いやありえないだろ、などと虚しい自問自答をしながら出来上がったお節のお重を冷蔵庫にしまった。
「馬鹿か俺は……」
時計を見る。十八時。大掃除に時間を掛け過ぎて少し予定より時間が押しているが問題ない。除夜の鐘が鳴る頃まで眠って時間を潰そうかと考える。
こたつに潜り、目を閉じる。こたつの中は温かいのにどこかスカスカしていて居心地が悪かった。
一人でいると良からぬことをぐるぐる考えて押し潰されそうになる。一人は駄目だ。
眠ろう。眠れば忘れることだから。眠って起きたら年越しも間近だろう。そうしたら紅白でも見ながらだらだらインスタントの年越し蕎麦を食べてまた眠ろう。一人は退屈で寂しくて寒いから。
こたつの暖かさに身を委ね、俺はそのまま意識の糸を手放した。

***

「……きろ、……た、おい、おいって」
「ん……」
「日向、おい」
左右田の声が聞こえた気がした。多分意識が浮上しかけているから、夢に願望が現れ出たのかもしれない。
薄く目を開けてみると、ピントが合わない程近くに見覚えのあるピンク色があった。夢だとわかっていても嬉しくて、自然と笑みが浮かぶ。
「左右田だ……っ、ん」
「ったく、折角来たのにヨダレ垂らして寝てんじゃねーよばーか」
べろり。口元を這うぬめった感触にすっと眠気が引いていく。間近にあるのはあのピンク色。それではこれは夢か幻か。
「……え!?そ、そそ、左右田!?」
「オハヨー日向ちゃん、どうだよ寝覚めは」
目の前の恋人はどうやら夢でも幻でもなかったらしい。意地の悪い笑みを浮かべた左右田にこめかみにキスを落とされて、もうどういう反応をすればいいのかさえ分からなくなってきた。
「あ、あああ、あ、そ、そ、そっそそそそ左右田!?」
「眠いなら布団行けよな。風邪ひくっつーの」
「う、あ」
何も言えないまま混乱している俺の体にやってくる浮遊感。がっちりと体にまわされた左右田の腕に案外力あるんだなコイツ、などとどこか目が覚めたようなまだ寝ぼけているような感想を思い浮かべながら大人しく運ばれる。
「何でいるんだよ……」
「何でも何も、合鍵渡したのオメーだろ…………ほら、ベッドだぞー寝ろ寝ろ」
「こんな状況で寝れるかよ……お前のせいで目ぇ覚めた」
乱暴にベッドに落とされ、安いそれのスプリングがたわみ体を受け止めた。遠くに除夜の鐘が聞こえる。あと何度鳴るのかはわからないが、もう年越しが近いのは確かだ。
その鐘の音など素知らぬ顔で俺を見下ろす恋人に疑問をぶつける。
「なあ、何で左右田がここにいるんだよ。今日は来ないんじゃなかったのか?」
「それは後で教えてやっから、ちっと黙ってろ。あともうちょいだから」
「は?」
左右田が携帯電話を開く。ディスプレイに表示された時刻は二十三時五十九分、あと数十秒で日付も年も変わる時間だった。
まだどこかふわふわとした感覚に包まれながら、その数十秒を無言で待つ。新年を一番に祝おうという魂胆ならこっちが先に言ってその目論見を崩してやろうか、と悪戯なことを考えて口を開こうとした瞬間、ディスプレイがゼロを三つ表示した。
「誕生日おめでとう、日向!」
「……え?」
続けて耳元で囁かれる言葉にぽかんと口を開けていたが間もなくそれも左右田の唇で塞がれた。
「へへ、一番におめでとうって言ってやったー」
あいしてる、もな。なんて言いながら俺の寝ている横に左右田が飛び込んでくる。こいつ、誕生日覚えてたのかとかそもそも何でいるんだよとか色々混ざって苦し紛れにバカとかキザとしか言えなかった。
「何とでも言えって。嬉しいんだろーが」
「……なんで」
「何でって、恋人の誕生日だし……あ、ちゃんとプレゼントもあるかんな!」
頬を染めながらはにかみ笑いでそういう左右田がどうしようもなく憎たらしくて、嬉しくて、いとおしかった。
「そーだぁ……」
「なんだよー」
ぎゅうとその体に抱き着いて耳元に自分の気持ちを囁くころには、すっかりさっきの寂しさは消え去っていた。

いちゃほも左右日ください(懇願)